シナピルアルコ-ルは広葉樹繊維細胞2次壁中では主としてβーエ-テル結合によって重合し、シリンギルリグニンを形成しており、βーβカプリングしたシリンガレジノ-ル構造はリグニン骨格中のわずか5%程度しか存在していないことが知られているが、人工的にペルオキシダ-ゼを用いて合成(脱水素重合)するとその95%がシリンガレジノ-ルとなりβーエ-テル結合は殆ど生じない。したがってシナピルアルコ-ルの重合はその反応場の影響を著しく受けるものと考えられる。今年度は脱水素重合に及ぼす反応場の影響を明らかにするため、pHの変化や極性・非極性溶媒中及び多糖中に存在する疎水領域での重合生成物の構成割合の変化を検討した。シナピルアルコ-ルは水のような極性溶媒中では主としてシリンガレジノ-ルを生成するが、ジオキサンのような非極性溶媒中、FeCl3を酸化剤として作用すると主としてβーエ-テルを生じる。またpHを6.5から酸性側にするほどβーエ-テル結合を多く生じる。このことはシリンギル核のメトキシル基の電子効果によるものであり、極性溶媒中ではメトキシル基の+E効果によってβラジカルが多く生成するが、非極性溶媒中ではメトキシル基のーI効果によってβー位の電子密度が減少し、βーエ-テル結合が主として生成するものと推定された。ペクチンの水溶液中でのシナピルアルコ-ルをペルオキシダ-ゼ/H202系で脱水素重合すると水の系であるにもかかわらずβーエ-テル結合が主として生成し、シナピルアルコ-ルはペクチンの疎水領域に取り込まれて重合しているものと推定された。このことを植物細胞壁中に置き換えて考えると、リグニンはヘミセルロ-スの疎水領域中で重合していることが明かとなった。現在透析膜法によるLCCの合成について検討してあり、またスラブゲル中でのペルオキシダ-ゼの電気泳動下に於ける重合についても検討している。
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