母系遺伝をし、交又しないとされている核外遺伝子のミトコンドリアDNAは、核内遺伝子(アイソザイム)と遺伝様式が異なることから、集団の世代を越えた繁殖構造を母系の観点から捉えることができる遺伝標識として近年脚光を浴びてきている。しかし、集団構造の解析に効果的に応用するためには、多くの個体の分析を簡単に行える手法の開発と、魚類のmtDNAの基本となる制限酵素切断地図の作成を行い、切断型の変異が塩置換によることを確認しなければならない。本研究はヤマトゴイおよびサクラマス類を対象として以下のことを明らかにした。(1)ヤマトゴイとサクラマス類のmtDNA精製度の高い簡易単離法として、木島ら(1990)のアルカリ処理法にグラスビ-ズによる精製法を加えた一連の手法を開発した。(2)ヤマトゴイのmtDNAを15種類の制限酵素で切断し、5種類のハプロタイプの存在を明らかにした。(3)これらの制限酵素切断型変異から5種類のハプロタイプの制限酵素切断地図を二重消化法によって作成した。(4)作成した制限酵素切断地図の比較によってヤマトゴイの制限酵素切断型の変異が単純な塩基の置換によって起こっていることを示唆した。(3)(2)によって、制限酵素切断片の長さの比較(RFLP)によってヤマトゴイのmtDNA分析による比較ができることを確認できた。また、魚類においても同様にRFLP法によってmtDNAの制限酵素切断型変異の比較ができることを示唆した。(4)そこで6塩基認識の6種類の制限酵素を用いてサクラマス2系統、ヤマメ1系統、アマゴ1系統の養殖集団のmtDNAの切断型変異を明らかにし、特別な選択を行っていないサクラマスとヤマメは天然からいくつかの母系が起源となって繁殖されているが、パ-に選択を重ねたアマゴは単一母系から生産されているという繁殖構造が推定された。
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