個体を中心とした考え方によるLomnickiのモデルをもとに、種苗放流が自然個体群に与える影響を明らかにするためにモデルを作成し、放流の影響について考察した。スクランブル型、コンテスト型競争のいずれであっても、放流が個体群に大きな影響を与えることが明らかになった。各々の個体が与えられたリソ-スを分け合うスクランブル型競争では過大な放流によって、個体群が絶滅してしまう危険性がある。いっぽう、順位の高い個体がリソ-スを独占してしまうコンテスト型競争では、放流個体の順位が自然の個体の順位より低いと、ある数以上の放流はまったく意味をなさない。しかし、逆に、放流個体の順位が高いと、放流量の増加にともない放流個体が自然の個体を駆逐してしまい、ついには、放流個体のみが存在することになる。即ち、放流個体との間に競争力に違いがある場合には、放流を慎重に行なわねばならないことが明らかになった。さらに、放流が個体群に与える影響は、このような数だけの問題ではなく遺伝的な変化も考慮する必要があり、これは今後の課題として残された。 また、個体ごとの空間占有と移動分散を明らかにするために、アワビを用いて水槽実験を行ない、移動、分散のモデルを作成し、シミュレ-ションを行なった。その結果、アワビの分散過程をよく近似でき、分散のパラメタを推定できた。このように、個体を中心にした個体群内の競争や移動、分散過程の解明に一定の成果が得られた。
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