琉球列島産アユ(リュウキュウアユ)は、普通のアユに比べて、形態・生態のみならず遺伝子組成においても著しい特徴を有していることが最近の研究で明らかになり、分類学的にも亜種として区分されるに至った。本亜種は、アユの育種や新品種作出といった将来の大事業を考えたとき、きわめて貴重な遺伝的資源だと考えられる。本研究の目的は、このリュウキュウアユの遺伝子組成を、アユ類と同じキュウリウオ上科に属するワカサギ等の近縁魚類と比較することにより、その系統学的由来の解明を通じて本亜種の遺伝資源特性を明らかにすることである。 今年度は、キュウリウオ科魚類である、チカ、ワカサギ、キュウリウオ、シシャモ、およびカラフトシシャモから得た試料をアユとリュウキュウアユのそれとともに電気泳動法によって分析し、アイソザイム遺伝子の異同の検討を行った。これらの魚種は現在日本近海に生息するキュウリウオ科魚類のうち、イシカリワカサギを除くすべてであり、またキュウリウオ科魚類に含められる全6属のうち、Allosmerus属とThaleichthys属以外の4属の代表を含んでいる。 アイソザイム分析の結果、アユ属と他のキュウリウオ科魚類の間には多くの遺伝子の置換があり、遺伝的差異はかなり大きいことが示された。得られたアイソザイムデ-タを系統学的に解析した結果、リュウキュウアユは、他のキュウリウオ科魚類との遺伝子の共有率がアユよりもやや高く、祖先的性質を色濃く保持している可能性のあることが示唆された。なお、Howes and Sanford(1987)が提唱したようなアユ属とキュウリオウ属(あるいはワカサギ属)との特別の近縁関係は支持されなかった。
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