アユの琉球列島固有亜種リュウキュウアユは貴重な遺伝的資源であると考えられる。本亜種の遺伝資源特性を明らかにすることを目的に、アイソザイムおよびミトコンドリアDNA(mtDNA)変異を、本州のアユおよびワカサギ等の近縁魚類と比較しながら分析した。 本州産アユならびにキュウリウオ科魚類5種をリュウキュウアユとともに電気泳動法によって分析し、アイソザイム遺伝子の異同を検討したところ、アユ属と他のキュウリウオ科魚類の間では多くの遺伝子が異なっていた。得られたデータをいくつかの系統解析プログラムを用いて検討したが、アユ属がとくにキュウリウオ属ないしワカサギ属と近縁であるとするHowes and Sanford(1987)の説を支持するような結果は得られなかった。 mtDNA分析については、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を活用した塩基配列分析法が急速に確立されてきたことに鑑み、当初予定していた制限酵素断片長多型分析ではなく、塩基配列分析に重点を置くこととした。いくつかの部位を対象にして、DNAの抽出法、PCR条件、プライマーの設計、シークエンス条件、などを逐次検討した結果、多くの部位でDNAが成功裏に増幅でき、良好な塩基配列データが得られることが明らかになった。このうち特にND4〜tRNA^<Ser>遺伝子部位の塩基配列分析を複数標本について行ない、453サイトの完全な塩基配列データを得た。両亜種間の塩基置換率は約2%であったのに対し、アユ類とシシャモやシラウオとの間では16-20%という大きな差異のあることが推定された(Kimuraの2パラメーター法による)。こうして得られるDNA塩基配列データは、リュウキュウアユの特性や放流魚の追跡調査など、将来のより本格的な遺伝資源学的研究にとって強力な手がかりを提供することになるものと期待される。
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