先年度の研究で、農作物の生育異常の早期診断のために、光合成反応に関係するクロロフィル蛍光誘導期現象の画像計測法について検討した。今年度は、酸素発生系の働きと関連している蛍光誘導期現象のPのレベル(正確にはDPの傾き)の変化を光合成機能の指標として用い、種々の環境ストレスの影響診断を行った。具体的には、まず、夜間の低温が翌日の光合成に与える影響を調べた。夜温が2℃、10℃、20℃の状態で、10時間置いた後、翌日20℃で測定したところ、2℃の場合において蛍光強度の低下が著しかった。次に、中心波長が、300nmで、半値幅10nmの干渉フィルタを通して照射した紫外線(強度=0.07mWcm-2)による影響を調べたところ、3時間程度の照射で蛍光強度の低下が認められた。しかし、照射終了後6時間経過した時点では、蛍光強度は回復し、軽度の紫外線による光合成阻害は、可逆的な障害であることがわかった。また、大気汚染ガスの主要な成分であるPAN(Peroxyacety nitrate)の影響について、同化箱によって測定される蒸散速度やCO2吸収速度の低下と蛍光画像計測により測定される蛍光強度の低下との関係を調べたところ、同化箱法では葉の平均的な蒸散速度やCO2吸収速度が検出されるのに対し、画像計測による蛍光計測では局所的な変化も検出できるので、蛍光画像計測の方が異常を早期に検出できた。このことは、蛍光計測により、環境ストレスによる光合成への影響の早期診断が可能であることを意味している。
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