近年、わが国において養鹿産業が注目されてきているが、わが国における養鹿産業の歴史は浅く、林業における食害や生態系に及ぼす影響をはじめ、従来の反芻家畜での飼育管理技術との違いなど、不明な点が多い。そこで、本研究ではまず第1に、ニホンジカの消化機能の季節変動を検討するため、アルファルファ・ヘイキュ-ブの自由採食量、消化管内通過速度、消化率を1年間にわたって測定した。次いで、粗飼料の選択採食性と採食量の季節変動および体重の変動について調査した。 (実験1)去勢雄ニホンジカ5頭を供試し、5月、8月、11月、2月にアルファルファ・ヘイキュ-ブおよび染色飼料を給与し、染色飼料片の消化管内平均滞留時間と飼料消化率を測定した。 その結果、ニホンジカでは、2月に採食量が低下すること。また、11月に採食量が多いにもかかわらず、高い消化率を維持することなど、これまで知られている反芻家畜の知見とは異なる消化機能を有することが示唆された。 (実験2)ニホンジカ18頭(成雄1頭、成去勢雄7頭、幼雄3頭、成雌5頭、幼雌2頭)を共試し、1年間を通してアルファルファ・ヘイキュ-ブ、一番刈オ-チャ-ドグラス乾草、ススキ主体野乾草、乾燥稲ワラを充分量給与し、自由採食とした。毎月始めに個体別に体重を測定し、10日毎に群全体の採食量を飼料別に測定した。 その結果、採食量は11月から減少し始め、2月に最低となり4月まで同程度を維持した。群全体として冬期に体重の減少傾向が認められた。各飼料の選択採食性については、季節を問わず、アルファルファ・ヘイキュ-ブが最も多く、年間を通して98%以上であり、本実験のような飼養管理条件下では食性の変化は認められなかった。 以上、ニホンジカの消化機能の季節性に関して検討を加えてきたが、従来の家畜に比較し、野生反芻動物の性質を多く残している、あるいは野生そのものの、ニホンジカを飼育管理するには多くの不明な点が残されており、今後内分泌機能や繁殖生理に関する研究を進めたいと考えている。
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