研究概要 |
家畜化と系統分化の際にどのような遺伝的変化が生ずるかを検討するために、家禽ウズラにおける集団内及び集団間の遺伝的変異性の評価と、また野生ウズラのそれとの比較を行った。変異性の評価には酵素や蛋白質を支配する34座位の遺伝子を標識として用いた。 1)家禽ウズラ25集団についての多型座位の割合と平均ヘテロ接合体率の平均はそれぞれ0.318と0.097であった。これらの値は木村と藤井(1989)が野生ウズラ3集団について報告した値と殆ど同じであった。 2)集団間の分化の程度を表す一つの尺度であるWright(1965)のFst値は、家禽集団間(0.175)の方が野生集団間(0.017)の約10倍大であった。平均の遺伝距離D(Nei,1975)も家禽の場合(0.0218)の方が野生の場合(0.0048)よりも約5倍大であった。この家禽ウズラ集団間の遺伝的分化の程度は岡田(1984)が鶏の品種間について報告した値の1/2から1/3の範囲にあった。 3)主成分分析を行った各集団間の遺伝的類縁関係を調べた。以前に木村と藤井(1989)が報告したと同様に、野生と家禽スヴラ集団はそれぞれ異なったクラスタ-を形成した。さらに体重大の方向に選抜されたカナダの2集団はその散布図において、相互に、またいずれもこれら2つのクラスタ-から離れて位置した。ハワイの帰化ウズラ集団も別の1つのクラスタ-を作った。このウズラは1920年頃、今は存在しない戦前の日本の家禽ウズラがハワイに導入され、これが帰化したものとされているが、貴重な遺伝資源と考えられる。 4)コリンウズラとヒメウズラの遺伝的変異性はウズラのそれよりも有意に低かった。しかしこれら2種のウズラの変異性の値は、木村と藤井(1989)が42種の鳥類について概算した変異性の平均と同じ位であった。
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