家禽精子の膜の機能は、種々の条件によって異なるが、基本的な生理機能はある程度遺伝的に決定されているものと思われる。これまでの筆者等の研究によって、精子の膜の機能をある程度人為的に調節できることが明らかにされ、また、精子の耐凍性を指標として、雄家禽を選抜育種できることも確認されている。そこで今回の研究では、雄家禽の個体によって精子の膜の機能に本質的な相違が認められるか否かについて確認するとともに、その機能が何によって調節されているかについても検討した。さらに、家禽の種によって精子の膜の機能に違いがあるのかどうかについても検討するため、鶏および七面鳥の精子を用いて比較生理学的観点から実験を行った。また、体外で保存した精子の生理機能に関して、家禽間で差異が認められるか否かについても検討を行った。得られた結果を大別して要約すると次の通りである。 (1)家禽(主として鶏)精子の膜の機能、とくにアミノ酸およびグルコ-スの取り込み量を雄個体間で比較してみると、相当の違いが認められ、さらに細胞膜修飾剤で処理した精子の膜の機能を比較すると、雄個体間に極めて顕著な差異がみられた。 (2)給与する飼料中のタンパク質含量によって、精子に含まれるATPの量が変化することが明らかにされたことから、精子の生物化学的性質も生体の生理的条件によっても異なることが確認された。 (3)鶏と七面鳥の精子を用いて、膜の機能を比較したところ、両者間にかなりの差異が認められ、とくに精子を体外でしかも低温で保存した場合にその傾向が強くみられた。また、精子を凍結保存した場合には、両家禽間において、膜の機能が全く逆転するという現象が観察された。このことは、精子の生理のみならず機能に関しても鶏と七面鳥ではかなりの違いのあることを示唆している。
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