牛に於ける欲求不満時の行動分類を報告する。1哺乳子牛における調査:人工哺乳子牛で制限され易い行動の中から、摂食行動、社会行動、運動を取り上げ、それらの行動を実験的に抑制し、その反応を調査した。古典的条件づけ法を用いて、各行動と条件刺激(ベル)を連合させた後、条件刺激のみを与え、実験的に行動抑制状態を作り出した。摂食行動では3回程度の強化から、運動では7回程度の強化から、条件刺激の提示にともない、起立反応、ニオイ嗅ぎ行動、発声がみられ、学習の容易な成立が示唆された。社会行動ではそれらの行動出現はみられなかった。運動と社会行動を許容しても、激しく飛び跳ねる、走る、他個体と遊ぶなどの積極的な行動はみられず、それらに対する欲求レベルは低いものと推察された。運動と社会行動の抑制ではニオイを嗅ぐ、見回すなどの欲求行動の他、横臥、休息及び反すうが多くなる傾向であった。摂食行動の抑制では、欲求行動の他、まず反すう及び身繕い行動が多くなった。絶食レベルを高めると、行動は質的に変化し、ものを噛んだり、吸う行動が新たに出現した。すなわち、低レベルの欲求不満状態には横臥、休息などの消極的行動で対応し、中レベルの欲求不満に対して反すう、身繕いなどの自己覚醒的行動で、そして高レベルの欲求不満に対しては噛む、吸うなどの積極的行動で対応するものと考えられた。後者の積極的行動を多く行う子牛では、好中球数/リンパ球数(ストレスの生理的指標)は低く、ストレス抑制効果も示唆された。2肥育牛における調査:ペン飼育の肥育牛を係留し、運動の抑制効果を調査した。係留2日目から、放牧下では観察されなかった水面を舌ではじくという行動が新たに出現した。この行動は8週目までは、出現時間数も余り変化することなく推移したが、9週目にはtongueーrollingという無目的で常同的な行動へと変化した。欲求不満の長期化が異常行動をもたらすものと考えられた。
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