本研究は、大別して文献研究、葛藤・異常行動の分析及び集約畜産の福祉視点からの評価の3つからなる。 1.文献研究により、日本の家畜観には虐待という発想の育たなかったこと、従って福祉を科学的に捉える努力はこれまでなかったこと、しかし、1985年以降の畜産学分野での検討・討論は、家畜福祉の問題が、畜産の近未来にとって重要な課題の1つとなってきていることを明らかにした。 2.子牛の行動要求をオペラント条件付け法を用いて調査した結果、運動や社会行動に対しても要求を持つことが明らかとなった。そして、要求行動の抑制は、休息の増加に加え、身繕い行動や反すう行動の増加、さらには異物かじりや吸引行動の増加ももたらした。常同化した舌遊び行動の原因を探る目的で、それを多発させるキリンを調査した結果、拘束、社会的ストレス、環境や餌の形状の単純さが要因と特定され、舌遊び行動とは様々な心理的ストレスに対応して出現する葛藤・異常行動であると考えられた。 3.人工哺乳子牛の単飼ペン育成方式では、社会行動、吸乳行動、運動及び探索行動が抑制され、吸引行動、反すう及び横臥行動が高揚するという特徴が明らかとなった。肥育牛では、拘束程度の強い繋留方式で、舌遊び行動は有意に多く出現した。繋留開始と共に疑似舌遊び行動が出現し、徐々に常同化し、肥育末期には減少傾向となった。舌遊び行動の実行は、葛藤行動と分類された身繕い行動や反すう行動を抑制し、さらに内臓疾患や肉質等級とは負の相関がみられ、心理的ストレスを軽減する効果をもたらす可能性が示唆された。産卵鶏のケ-ジ飼育では、探索行動、運動、社会行動更に産卵にともなう生殖行動が抑制され、それは摂食を伴わないつつき行動の増加や異常行動となって出現し、心理的ストレス状態であると考えられた。
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