本研究の焦点は、ルーメン微生物生態系におけるトリプトファン(Trp)合成の面でルーメンプロトゾアがどの程度の役割果たしているかを知ることであった。そのために、平成2年度は、まず、プロトゾア単独系(P系)のTrp合成能を検討し、平成3年度は比較のためにバクテリア単独系(B系)の、そして、平成4年度は全体としての量を比較するためにプロトゾアとバクテリア共存系(BP系)のTrp合成量を検討した。なお基質としてインドールピルビン酸(IPA)及びインドール酢酸(IAA)を用いたので、同時に、それらの基質を添加した場合のTrp以外の代謝産物についても比較した。以下、3年間の研究結果を総合的に比較しながら、特に、Trp合成に関する成果を報告する。P系では12時間の培養でIPA(lmM)からその約12%相当のTrpが合成され、培地に蓄積した。P系は増殖系ではないので、合成されたTrpがこのように培地中に蓄積する。この点を^<14>C-IPAにより証明しようとしたが、これは現在製造されていないため、断念せざるを得なかった。なお、P系では、IAAからのTrp合成はゼロであった。B系及びBP系では、これらが増殖系のため、培地中に遊離の形ではTrpが蓄積しなかった。これらの系では、^<14>C-IAAを用いてそれからのTrp合成量を検討した。その結果、12時間の培養で、B系では明らかに菌体内Trpに放射能が検出され、その量は、5.7nmol/mlであった。これはIAAが還元的にカルボキシル化され、アミノ基転移反応が起こったことを示す。BP系でも微生物体内Trpに放射能が検出され、その量は、10.4nmol/mlであり、B系よりも約80%も多くの放射性Trpが合成された。従って、BP系内ではプロトゾアが明らかに特技のアミノ基転移反応によりTrp合成を促進したと考えられた。バクテリアによるIAAの還元的カルボキシル化反応の速度は、プロトゾアとバクテリア両者を合わせたアミノ基転移反応速度に対応すると考えられた。
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