本研究は、マレック病ウイルス(以下MDV)における腫瘍の発生とその維持に関連する遺伝子、あるいはMDVの複製、増殖に必要な遺伝子を明らかにすることを目的とし、モデル系としてMDV由来リンパ腫株化細胞を用いて本年度以下のような知見を得た。 1.MDV由来リンパ腫株化細胞中には複数のMDVゲノムが存在するがin vivoでニワトリに感染した場合のMDVの遺伝子の発現と比較してウイルス特異的mRNAの合成はゲノムのごく一部(主として倒置反復犯列の領域)に限られていることならびに株化細胞中においてMDVゲノムが真核生物におけるゲノムDNAと同様に高次構造(ヌクレオソ-ム構造)をとっていることを示した。このヌクレオソ-ム構造はMDVの転写を活性化する1UdRでの処理によって大きく変化した。 2.MDV DNAのBamH1ーH領域から発現する1.8キロ塩基のmRNAのスプライシング部位に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドでリンパ腫株化細胞を処理した場合、このオリゴヌクレオチドは培養時間にほぼ比例して細胞中に取り込まれ、これにともなって対応するmRNAの発現は抑性され、またリンパ腫株化細胞の悪性形質転換の性質が抑制されることを示し、この遺伝子がMDVにおける腫瘍原性の維持に重要な役割を果していることを明らかにした。 3.ウイルスを産生しないリンパ腫株化細胞MDCCーRP1(RP1)中のMDVゲノムDNAをウイルスを産生するリンパ腫株化細胞中のMDVのDNAと比較するとRP1細胞株中のMDVゲノムはBamH1ーH領域に構造変化が起こっていることが示された。この構造変化の起っている領域の近傍にはMDVのDNAの複製開始点と推定されるDNA領域が存在し、この構造変化がRP1細胞でMDVが産生されなくなった原因の1つであることが示唆された。
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