本研究では、当初、BHVー1感染細胞からmRNAを抽出し、cDNAを合成、クロ-ン化し、大腸菌で発現させ、モノクロ-ナル抗体を用いて蛋白を同定し、それをプロ-ブとして目的とする糖蛋白遺伝子を単離して、その構造を決定する予定であった。しかしながら、1987年から1990年にかけ次々と国外研究者の手によりBHVー1主要糖蛋白をコ-ドする遺伝子の塩基配列が発表されるにいたり、研究の重点をそれらの生物活性の解析並びに真核細胞での発現に移した。また、塩基配列の決定に関連しては、4塩基認識制限酵素を用いての株間の比較を試みた。 BHVー1主要糖蛋白質(gI、gIII、gIV)のうち、gIIIに関しては宿主細胞膜上のヘパリン様物質を認識し、それによってウイルスの吸着を媒介し、感染を開始させることを明らかにした。また、本糖蛋白をコ-ドする遺伝子を単離し、発現ベクタ-pcDLーSRaに組みこみ、COS細胞での一過性発現系を確立した。得られた組み替え体gIIIは感染細胞由来gIIIとほぼ同様の性状を示し、BHVー1の赤血球凝集活性にはgIIIが必要十分条件であることが明らかになった。gIVに関しては、一過性発現系により、その細胞内局在性が感染細胞内のそれとは異なり、核内に集積することを明らかにした。現在、生物活性確認のため持続発現細胞株の樹立を試みている。gIについては、遺伝子は単離されているが発現系は確立されていない。 BHVー1はゲノムの制限酵素切断パタ-ンから少なくとも3つの亜型に分類される。そこで、6塩基認識酵素でI亜型(IBR型)に分類された国内外の分離株を4塩基酵素を用いて類別したところ、BHVー1ゲノムは従来考えられていた以上に多様性に富むことがわかった。さらに、複数の酵素による成績を組み合わせることにより、株の同定も可能になることが示唆された。
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