1.ほ乳動物の生体時計機構を細胞レベルで解析するため、胎児視交叉上核細胞を培養し、3ー4週間後、神経細胞を還流した。40チャンネル中12例に於いて、vasopressinの顕著な日内変動を認めた。山と谷の振幅は4ー6倍もの大きさを示し、その周期は27時間でほぼ一定していた。このリズムは還流終了まで(5日間)継続し、その間振幅のダンピング減少は起こらなかった。残り28例中22例は全くリズムを認めなかった。残り6例は2ないし3サイクルのリズムが認められたが、以後消失した。以上の結果は、ほ乳動物の視交叉上核が時計の本体である事を示す最も有力な証拠を提示している。今回の結果は、培養細胞で日内リズムを測定できる可能性を初めて示したものであり、ほ乳動物の時計機構を細胞レベルで解析する好個なモデルを提供するものと考えられる。 2)生体時計機構の光同調速度について検討した。八時間光条件を変化しその二日後にDD条件に移して、行動の自由継続リズムがどの位相から始まるのかを検討した結果、8時間の光後退の場合は、16例全例において、また8時間光条件を前進した場合には16例中9例において行動リズムは新たな12L:12DのD期の位相から始まった。この事は新たな光条件に曝されたわずか二日間の間に生体時計は新たな光条件に再同調している事を示している。また光変化三日後にDDに移した場合にはすべての例であらたなD期から行動リズムが始まった。一方、新たな明暗条件に変化した後、その状態での再同調を行動リズムで調べるとおよそ6.4日を要した。以上の結果は生体時計機構は新たな光条件に速やかに再同調するが、表現型としての行動リズムなどが完全に再同調するにはさらに時間を要する事を示唆している。
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