研究概要 |
ウマの夏癬(summer mage)は,主に北海道地方において夏期に集中的に多発する慢性の皮膚病で,特に尾根部ないしタテ髪部領域に好発し,罹患馬は激しい掻痒症状を示す疾患である.本症に関する我が国での研究は,古く中村ら(1953〜1956)の報告に止まり,病国ならびに病理学的本態は未だ不明のまゝである。本研究はウマ生産地に多発する原因不明の本疾患の病理学的本態を明らかにすべく免疫病理学的に検討を加えたものである.検索材料は全て北海道静内町地方で採材された繁殖用競走雌馬45頭の皮膚生検材料である。材料はA群:臨床的に発生初期と考えらる6月初旬採材の15例,B群:病勢増悪の顕著な7月下旬採材の22例,C群:発生後期の9月中旬採材の8例に分類された。 肉眼所見:病変部皮膚は脱毛が特徴的で,同時に鱗屑ないし痂皮を形成し,さらに重度例では象皮様に肥厚し皺襞を形成していた。 病理組織学的ならびに電子顕微鏡学的に共通した特徴像は,Hyperkeratosisおよびacanthosisからなる表皮各層の過形成性変化,有〓層下部から基底層における細胞間水腫および同領域から表皮接合領域でのリンパ球,組織球様細胞ないしランゲルハンス細胞(MHCクラスII抗原,S100蛋白陽性)の数的増加ならびに真皮乳頭腫における充血,水腫であった.また真皮では,血管周囲の好酸球浸潤および細動脈壁の粗鬆化が明らかであった.さらに血管周囲に散見される肥満細胞には頻繁な脱顆粒状が指摘された.これら変化は.発生中期であるB群でより顕著で,C群では表皮の過形成性変化と毛包の変性々変化が著明となる傾向を示した. 以上の諸変化から,本症の皮膚で展開される病変の病理学的本態は,本質的にはアレルギ-性の炎症であり,諸外国におけるQueens itchおよびsweet itchに酷似する同一疾患の範疇に属するものと見做された. 成績の大要は1991年4月の獣医学会で講演された。
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