研究概要 |
本研究は、成長に伴うジギタリス感受性の変化にNaチャンネルが関与しているか否かの解明のために行われたものである。研究期間は平成2年度と3年度の2カ年であった。本研究の胎児とは妊娠21日齢のものであり、成熟とは約4カ月齢のものである。 1.収縮力記録実験 (1)ouabain収縮力増大作用の胎児および成熟ラットにおける比較と各種薬理学的拮抗薬存在下におけるouabainの収縮力増大作用:胎児(心室筋片)および成熟(左心室乳頭筋)ラットにおいてouabainは低濃度部分と高濃度部分の2相性の収縮力増大作用を発現した。しかし、胎児では低濃度部分は有意に低かった。また、この収縮力増大作用に対してアドレナリン受容体遮断薬およびヒスタミン受容体遮断薬は全く影響を与えなかった。しかし、veratridineは高濃度および低濃度作用を有意に増加させた。 (2)Naチャンネルの特異的に作用する毒素の収縮力増大および減少作用の胎児および成熟ラットにおける比較:胎児および成熟ラットにおいてtetrodotoxinは収縮力減少作用を、veratridine,anemonia sulcata toxinおよびandroctonus australis toxinは増大作用を発現した。しかし、胎児ラットでは成熟ラットと同等の作用を発現させるには全ての毒素において有意に高濃度を必要とした。centruroides sculpturatus toxinは成熟ラットでは収縮力を増大させるが胎児ラットではその作用は観察されなかった。 2.[ ^3H]ouabain結合実験 本実験には胎児および成熟ラット心室筋から得たホモジェネイトを使用した。[ ^3H]ouabain結合実験結果をもとにscatchard plot解析を行った。その解析は胎児および成熟ラットとも結合部位は2箇所であることを示した。しかし、胎児および成熟ラットにおける高親和性結合部位と低親和性結合部位の濃度比はそれぞれ1:8および1:4と異なっていた。 以上の結果からNaチャンネルは成長とともに発達すことが推測される。極小量の細胞内Naイオン増加はジギタリス収縮力増大作用発現に十分である事から、ジギタリスの受感受性変化(収縮力増大作用の成長に伴う変化)にNaチャンネルの発達はかなり重要な役割を果たしているものと思われる。また、ジギタリス受容体の生化学的変化もこの感受性変化にかなり貢献していると推察される。
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