研究概要 |
マウスコロナウイルスJHM株は,ラットに高い神経病原性を示し,急性脳脊髄炎や亜急性の脱髄性脳脊髄炎を引き起こし,ウイルス性脱髄疾患のモデルとして研究されている。我々はウイルスの病原性に関与する因子として,ウイルス粒子表面に存在するS蛋白に焦点をしぼり実験を行なってきた。既に我々の研究室では,ラットに対する神経病原性を異にするいくつかの変異株を分離し,比較することにより,S蛋白の大きいウイルス(Clー2)は,小さいウイルス(SPー4)と比べ,高い病原性を有することがわかっている。そこで神経病原性を分子レベルで解析する目的で,ラットに対し高い神経病原性を示すClー2株のS蛋白遺伝子のcDNAを作成し,その塩基配列を決定し,既に報告されている非病原性株のS蛋白遺伝子と比較した。Clー2S蛋白遺伝子は4128塩基からなるオ-プンリ-ディングフレイムを持ち,1376個のアミノ酸をコ-ドしていた。又推測されるアミノ酸配列から,N末端にシグナルペプチドを,C末端に膜貫通部位を持つ糖蛋白であることが明らかとなった。Clー2S蛋白を非病原株SPー4のS蛋白と比較すると,N末端から約1/3部位に141個のアミノ酸の挿入部位が認められた。即ち,非病原性SPー4株のS蛋白には,アミノ酸141個からなる欠損部位が存在することが明らかになった。以上の実験結果より141個のアミノ酸から成る領域が病原性に関与している可能性が示唆された。
|