本年度は、神経の機能、特に伝達物質の放出能に対する異物の慢性的投与の影響を調べた。神経終末におけるCa^<2+>流入阻害毒として抗菌剤ネオマイシン(NMC)、シナプス間隙における伝達物質の分解阻害毒とレマ農薬パラチオン(PRT)をとり上げ、マウスに対する慢性的処置が運動神経機能におよぼす影響を、各種体外計測法により、また一部生体標本を体外に摘出し電気生理学的に調べた。8ー9週令のddY系雄性マウスの肩胛関皮下に生理食塩水に溶解したNMCを、50μM/kg/day、15日間皮下投与、または腹腔内にオリ-ブオイルに懸濁したPRTを2.57μM/kg/day、30日間投与した。対照群にはそれぞれ生理食塩水およびオリ-ブオイルを体重あたり定量投与した。NMCあるいはPRTの投与期間中各種機能試験を、連続投与の終了時、横隔膜神経筋標本を作成し、クレ-ブスリンゲル溶液中で伝達物質の放出能を調べた。その結果、NMCの連続投与がdーツボクラリンのLD_<50>を低下させた以外には、NMCあるいはPRTの連続投与は外部測定機能に著明な影響をおよぼさなかった。しかし、両検体で処置したマウスでは、運動神経伝達物質の放出能に変化が生じた。NMCによる処置は、刺激下の伝達物質の放出に関する運動神経終末のCa^<2+>の協働性を亢進したが、非刺激下の放出能には影響しないという成績を得た。これに対して、PRTによる処置は、刺激下の伝達物質放出にはそのCa^<2+>感受性を含めて影響しないが、非刺激下の伝達物質の放出を迸択的に抑制する成績を得た。 NMCの連続投与は神経終末におけるCa^<2+>の流入を、PRTの連続投与はシナプス関隙における伝達物質の分解を、それぞれ慢性的に阻止することに起因すると考えられた。
|