本年度は、標本箱および標本戸棚を購入して、これまでに得られている資料を整理し、比較解剖学的研究を行なって、分類上有用な形質の発見に努めた。またこれにもとづいて、日本産マツヒラタハバチ亜科2属のうち、とくにAcantholyda属の分類学的再検討を行なった。本年度のおもな成果は以下のとおりである。 1.マツヒラタハバチ類の分類にあたり、斑紋の状態(とくに頭部と脚部の斑紋)、頭部の構造(とくに側触角域の点刻の有無)それに雄交尾器valvicepsの形状がとくに有用であることが明らかになった。 2.日本産のAcantholyda属Itycorsia亜属を分類学的に再検討した結果、次の新知見がえられた。 (1)これまでに日本から知られている4種のうち、A.laricis(Giraud)とされていた種は大陸産のA.laricisとは別の未記載種であることが判明した。 (2)上述の4種に加え、日本には少なくとも4未記載種あるいは未記録種が産することが明らかになった。このうちの1新種については、Acantholyda flaviventrisキバラマツヒラタハバチの名を与えて記載し、学会誌に投稿した。 (3)Acantholyda iwatai TakeuchiおよびA.albomaculata Shinoharaの雄はこれまで知られていなかったが、今回の研究の過程で発見された。 3.前翅前縁脈室の微毛の有無は、これまでAcantholydaとCephalciaの2近縁属を分ける有用な特徴とみなされてきたが、今回発見されたAcantholyda属の1未記載種の前翅前縁脈室にはCephalcia属の種のように徴毛があり、この形質が属レベルでは必ずしも安定していないことが明らかになった。
|