研究概要 |
小腸における脂肪の吸収形態は,これまで,主として吸収細胞内での動態に関するものが多く,かなり解明されてきた。我々は,吸収細胞から細胞外に放出されたカイロミクロンのリンパ管への移送路を研究した。その結果以下の知見を得た。 小腸内腔にデオキシコ-ル酸ナトリウム塩溶液を注入すると,上皮が剥離脱落する。上皮の脱落後の腸絨毛表面を走査型電顕で観察すると,基底板に散在性に大小不定の窓構造が認められる。トウモロコシ油経口投与後15分の吸収細胞では,細胞内には勿論のこと,細胞間にも放出されたカイロミクロンが豊富に見られる。カイロミクロンは,吸収細胞基底板の不連続部から大量に粘膜固有層に逸出する像が得られることから,上皮層から固有層内へは,基底板の窓構造部がカイロミクロンの輸送路となっていることが明らかとなった。腸粘膜を2N苛性ソ-ダ液で処理するとコラゲン網を抽出できる。この方法により,吸収細胞基底板の下部にコラゲン線維網があり,基底板窓構造に一致して丸い空隙が存在する。このコラ-ゲン線維網は,恐らく腸絨毛の舌状の形状保持に役立っているものと思われる。脂肪吸収に際しては,この空隙が通路として機能している。固有層では,ラットの場合,カイロミクロンの通過を阻止するようなコラゲン線維網はなく,カイロミクロンは細胞間のあらゆる部位に充満している。 固有層では,リンパ管内腔にはカイロミクロンが豊富に認められ,その内皮の外周には散在性に薄い基底板が見られる。このために,カイロミクロンは細胞間隙を通り,また,エンドサイトーシスで内皮層を輸送される。これに対し,毛細血管では,外周に比較的厚い基底板とコラゲン網が存在し,カイロミクロンは内皮に近づくのを阻止されている。この構造上の差が脂肪吸収路の特異性を規定しているものと思われた。
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