過去2年間は神経細胞の細胞体および軸索初節の細胞質の構造、特にゴルジ装置と微小管の三次元的な広がりと相互関係に注目し、主に金魚の小脳のプルキンエ細胞を用いて、長大な超薄連続切片を切り、ニコンのコスモゾーンで再構築を行い検討を行って来た。本年度はもう一方の極に当る極状突起の構造に焦点を絞り検討をすゝめた。材料は使い慣れているラットを用い、樹状突起が発達し、その伸長する方向の明確なプルキンエ細胞を対象に選んだ。プルキンエ細胞の樹状突起には大きなものでは10数層にも扁平な滑面小胞体が密に積み重なった層板小胞体の出現が古くから知られている。ただ一般にはこれらの層板小体の出現は固定操作の不適切なための人工産物として片付けられて来た。しかしこゝ数年再度この構造が注目され、イノシトール3燐酸の免疫組織化学的検索によりこの層板小体にイノシトール3燐酸が局在することが明らかにされた。我々はこの多層小胞体が固定による人工産物であるかどうかを確かめるために、酸素欠乏、固定液の組成、温度、前処理のやり方、などを変えたが、特に影響はなく固定には関係がないとの結論に達した。ラットの年令と多層小胞体の出現との関係をみた。その結果が8週以前には出現することはなく20週ほどの年老いたラットに出る傾向をみたので、2年の老令ラットを3匹調べたが、見つけることが出来ず、必ずしも年令とは関係しない。まだその出現理由は見出し得ないでいるが、まず多層小胞体の構造的特徴を100〜200枚の電顕完全連続切片をつくり構築した。多層小胞体が出現するときはすぺてのプルキンエ細胞にみられ、場所や細胞による差はない。細胞体から樹状突起の全経過に出現する。太い樹状突起では細胞膜直下で辺縁の細胞質にある多層小胞体は互に連続し、全体は網状を呈する。細胞質の中央にある多層小胞体は個々独立し、塊状をなしていた。機能についてはCa^<++>との関係が議論されている。
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