最近のWGAーHRPあるいはRI標識トレ-サ-を用いた実験から、視交叉上核に視神経線維が直接終止することが形態学的に証明され、さらに行動実験から視交叉上核が概日リズムの生成ないし発現に重要な役割を果たしていると考えられるようになった。一方、概日リズムの短くなったショウジョウバエ変異株の遺伝子解析からX染色体の特定部位(3B1ー2)に遺伝子がマップされていることが分かり、時計遺伝子(period gene)と命名された。その後、ショウジョウバエの時計遺伝子と相同の配列をもった遺伝子がマウスで見つかりInshida(1988)は、そのcDNAやgenomic DNAのクロ-ニングに成功した。我々はIshidaらと共同して、成体ラット(生後30日目)における時計遺伝子の脳内発現をパラフィン切片によるin situ hybridization法で解析した。その結界、脳内でhybridization signalは対角回、嗅結節、線条体、海馬皮質、視交叉上核および松果体などに認められたが、一番強い反応は視交叉上核ニュ-ロンであった。しかも、昼間に固定したラットの視交叉上核の反応の方が、深夜固定したものよりも明らかに強かった。そのような固定時間による反応の変化は海馬皮質では認められなかった。さらにhubridization signalはグリア細胞ではなくニュ-ロンの細胞体に一致してみられた。こうした所見から、今回使用したショウジョウバエ時計遺伝子と相同のマウス遺伝子が視交叉上核ニュ-ロンにおける概日リズム発現機構と密接な関連をもつことが示唆された。現在、ラット胎仔を用いて、個体発生的に本遺伝子の発現時期を検索中である。
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