心筋のCaチャンネルの開閉のキネティクスとその修飾を、パッチクランプ法で、単一チャンネル電流を長時間記録して、定量的に解析するのが本研究の目的であった。開状態、閉状態、利用可能状態、利用不可能状態の持続時間のヒストグラムを作成した。ある一種の反応について、状態変移はランダムに生ずるので時間のヒストグラムは一つの指数曲線で近似される。実際のヒストグラムは多数の指数曲線の和であるから、Caチャンネルには多数の状態変移が生ずる。長時間計測により、生起確率の小さい反応および遅い反応の解析が期待された。 開孔時間の主なヒストグラムは時定数約0.5ms成分であったが、時定数3ー5msの長い開孔時間の成分も全体の開孔の1%以下生じた。CaアゴニストBAY K8644は長い開孔の割合を増加させ、チャンネルの開確率を増大し、電流を増大する。本年度の研究によってβアドレナリン作用物質のイソプレナリンがこの長い開孔成分の割合を増大することが判明した。従って、チャンネルの燐酸化はジヒドロピリジン系薬物のチャンネルへの結合を促進すると示唆される。 イソプレナリンのCa電流増大の主たる機序は、チャンネルを利用可能状態にすること(利用率の増大)であり、逆に酸素欠乏時の代謝産物であるアデノシンは利用率を減少した。開確率の変化は無視できた。しかし本年アメリカの研究グル-プから、チャンネルの高度の燐酸化によって、開孔時間が延長し、開確率も増大することが報告された。この燐酸化の別の作用に対し長時間実験を行うことを計画している。
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