研究概要 |
視覚入力は最も重要な感覚入力の1つで、安定した入力を得るための重要な反射に前庭眼反射がある。半規管性眼反射が頭部回転に対応して補償性眼運動を起こすことがよく知られているのに反して、頭部直線加速度刺激によって誘発される耳石器眼反射については、これ迄の研究者の報告に意見の一致がない。本研究の目的は垂直方向の直線加速度変化による耳石器刺激によって誘発される眼球運動の詳細な解析である。成績(1)覚醒ネコの眼前60cmのスクリ-ン上に静止パタ-ンを呈示し、正弦波状の垂直直線加速度刺激(振幅10cm,0.2ー0.9Hz)を加えると補償性位相(入力加速度より180゚遅れ)の垂直眼運動が全周波数にわたり認められた。しかし(2)視覚入力を遮断すると、小振幅で位相の先行した(98ー137゚遅れ)耳石器眼反射が、0.3ー0.9Hzの刺激周波数で認められた。(3)ネコを静止し、スクリ-ン上の視覚パタ-ンのみを垂直方向に同様の振幅と周波数で正弦波状に動かすと、誘発された眼運動は刺激周波数が高くなるにつれ著名な位相遅れを起こし、(1)とは有為な差を示した。(4)予め両側迷路を破壊したネコ2頭で前庭症状が代償してから視覚入力下に正弦波状の垂直直線加速度刺激を加えた。得られた眼運動の位相は(3)と一致した。(5)カハル間質核領域にあって垂直眼球運動に関連するニュ-ロンを(1)の状況下で記録すると、すべてのニュ-ロンに(n=43)、応答が認められた。(6)同じニュ-ロンの80%は(2)の状況下ではその応答が消失し、残り20%もその位相は(5)の応答に対し平均80゚先行した。以上から視覚入力下での直線加速度刺激による補償性眼運動は、耳石器入力と視覚入力の干渉によって起こり、カハル核の眼球運動関連ニュ-ロンがそのような補償性眼運動の形式に関与すると結論される。
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