本研究は、ラット皮膚からメルケル細胞の単離識別法を確立し、ホ-ルセル・パッチクランプ法適用により同細胞膜に存在するイオンチャネルの性質を明らかにすることを目的とする。平成2年度では、主に電位依存性の内向き電流に注目し、その生理学薬理学的性質よりL型Ca電流であることを明らかにした。外向き電流は少なくとも2種の成分から成ることが4ーAPやTEAの効果から示唆された。本年度は、この外向き電流成分を保持電位V_Hで分離して、各成分の諸性質を明らかにした。1.V_H=ー80mVから+80mVに電圧固定すると一過性の外向き電流とそれに続く持続性電流が観察された。2.V_H=ー50mVからの脱分極では、ー15mVにイキ値をもつ持続性外向き電流のみが惹起され、TEAに高い感受性を示した。以上の性質より、持続性外向き電流は遅延K電流と同定できた。また、メルケル細胞の主体染色に用いた蛍光色素キナクリンはこの電流成分をTEAよりも低濃度でかつ選択的に抑制するという興味深い結果も得た。3.一過性外向き電流は、全外向き電流からV_H=ー50mVで生じる持続性電流成分を差し引くことによって得られ、ー50mV以上の膜電位で活性化し、定常状態不活性曲線からの50%不活性電位はー64mVで、また4ーAPに高い感受性を示すこと等から、A電流と同定できた。メルケル細胞表面膜の3種の電位依存性イオンチャネルに関する上述の所見はJ.Physiol.に投稿し印刷中である。次に、神経伝達物質候補(ATP等)に対する応答電流は現在解析中である。さらに最も興味ある機械ー電気変換チャネルについては、いまだ証拠が得られていない。これは表皮組織からの単離時にメルケル細胞の形態変化(長楕円形→球形)等が原因と思われるが、その変化を走査電子顕微鏡で確認した。メルケル細胞の走査電顕像は世界初であり、投稿準備中である。
|