本研究では、慢性電流源密度解析法を用いて、正常海馬CA1錐体細胞の樹状突起電気活動を明らかにすると共に、発作発現時およびキンドリング効果形成過程に伴って樹状突起電気活動がどのように変化するかを検討した。正常海馬CA1錐体細胞では、集合活動電位は細胞体から400mum離れた尖頭樹状突起部で初発し、0.1から1.0m/secの速度で細胞体部に向かって伝導することが明かとなった。5Hzの海馬交連キンドリング刺激中、樹状突起中央部および先端部での集合活動電位発生は次第に抑制され、発作直前に集合活動電位が樹状突起起始部または細胞体部で優勢に発生するようになった。樹状突起起始部および細胞体部で発生した集合活動電位の多くは樹状突起上をその先端部に向かって逆行的に伝導した。後発射出現中も同様な活動電位発生の異常が観察された。また、キンドリング刺激中、樹状突起の先端部で、30msec以上の持続時間を持つ異常な緩徐興奮性シナプス電流が周波数増強を受けて次第に出現した。後発射出現に至るとこの緩徐興奮性シナプス電流は樹状突起先端部に留まらず細胞体から尖頭樹状突起の全域で出現するようになった。これら発作時における樹状突起活動電位の抑制と細胞体部での異常興奮は、1日1回から4回のキンドリング手続きによって著しく増強された。キンドリングてんかん焦点の形成が進むと、発作間欠期でも樹状突起中央部および先端部での活動電位発生は抑制され、樹状突起起始部および細胞体部での活動電位発生が著しく促進されるようになった。また、発作間欠期スパイクの発生時にも発作発現時と同様の樹状突起および細胞体電気活動の異常が観察された。以上の結果から、持続時間の長い緩徐興奮性シナプス電流の発生と樹状突起の不活性化による細胞体異常興奮の両者が密接に関連しあいながら発作の発現およびてんかん焦点形成過程において重要な役割を果たしているものと考えられる。
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