運動の協調や姿勢の保持に重要な制御を行っている小脳が一方において血液循環調節に関与していることが示唆されている。又、運動時には必要に応じて骨格筋を中心とした血液循環の調節が行われ、筋肉中のエネルギ-の不足が生じてからこれを補うというだけでなく、予め血液流量を増加して運動開始に備えるという予測制御的な面がある。このような予測制御の場として小脳が一番考えられる。しかし、小脳は麻酔の影響を受けやすく、小脳の制御機構を解明するためには覚醒状態の研究が不可欠である。そこで本研究では、申請者らがこれまで明らかにした血液循環に関与する小脳の小領域3ケ所について、姿勢変換、歩行、走行時にどの様に血液循環調節を行っているか、慢性的に記録及び刺激電極を装着したウサギを用いてその制御機構を解明することを目的とした。まず、ウサギを用いて麻酔下で総頚動脈及び大腿静脈にカテ-テルを挿入、更に左腎交感神経に神経活動の記録用ステンレスワイヤ-双極電極を装着し、覚醒後約1週間にわたり慢性的に体血圧及び腎交感神経活動を記録する方法を確立した。この確立した方法を用いて正常及び小脳の循環調節部位の1つである小脳虫部垂及び小節をカイニン酸により破壊した慢性ウサギを用いて安静覚醒時、受動的体位変換及び自発的運動時に於ける腎交感神経活動及び体血圧の変動を記録し、分析を行った。その結果小脳の循環調節部位の破壊により安静覚醒時の腎交感神経活動及び体血圧の変動が大きくなった。しかし受動的体位変換時のこれらの変動は定性的には正常ウサギと差がなく、一定になるまでの時間経過がゆっくりとなった。一方自発的運動時には正常ウサギでは運動の直前に腎交感神経活動が増加し、血圧が上昇するが、小脳破壊ウサギにおいては一定の反応が見られなかった。以上の研究から、正常で行われている自発的運動あるいは姿勢調節時の血液循環調節に於いて小脳のこの循環調節部位が重要な役割を担っていると考えられる。
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