研究概要 |
ソマトスタチン(SS)は細胞膜の受容体に働き、種々の腺分泌を抑制し、脳では神経伝達を修飾する。受容体活性の変動は、ある種のホルモン産生異常や脳疾患等の異常時に、また、ラットの下垂体ではエストロゲン(E_2)に依存的に誘導され、大脳皮質では生後発達の過程に一過性に増加する。この様な受容体活性調節機序、その生理的意義については不明の点が多い。本研究の目的は下垂体や脳のSS受容体の発現を調節する体液性因子の探索、E_2の活性調節機序の解明、大脳皮質の生後発達に伴う活性変動の生理的意義を明らかにする事である。本年度はE_2の調節機序の解析、神経細胞の分化と受容体活性の関連について調べ次の様な結果を得た。(1)E_2は、GH_3細胞でSSやTRHの受容体活性に促進的な作用を示す。一般に、受容体mRNA活性は卵母細胞発現系を用いて調べることができる。しかしながら、SS受容体については卵母細胞ではその発現を検出することが出来なかった。一方、TRH受容体活性は検出でき、E_2の作用後短時間でmRNA活性の増加が認められ、E_2は受容体の転写レベルを促進的に修飾する事が判明した。(2)神経細胞の株化培養細胞で容易に分化を誘導できる細胞を取り上げ、SS受容体の有無を調べたところ、NS20Y細胞やNeuro 2A細胞にSS_Aサブタイプが発現していることが分かった。これらの細胞ではDMSO,PGE_1,gangliosides等で分化が誘導され、それとともにSS受容体活性は減弱した。これは受容体数の減少に基づくものであった。SSは神経細胞の増殖、移動の時期に一過性に高く発現し、神経細胞の分化が促進される時期にはその量や受容体活性が減少することから神経細胞の回路網形成に関与するものと推測されている。本研究の神経細胞分化に伴うSS受容体発現の低下はこの仮説をよく説明しており、今後これらの機序の解析のためには、ここに用いた系はよいモデル系に成り得ると考えられる。
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