研究概要 |
神経刺激伝達物質としての脳内ヒスタミンの生理的な役割を検索し,その神経化学機構を解明する目的で,マイクロダイアリシス法を応用し,脳内における内因性ヒスタミンの動態とその変動を検討し,以下のような成績を得た. (1)無麻酔・非拘束条件下でラットの視床下部前部からのヒスタミン遊離の日内変動を観察したところ,暗転とともに増加し夜間の活動期間中高い値を持続し,明期の開始とともに速やかに減少する明瞭な日内変動が存在することを認めた.同じ実験を昼行性のサルで行うと,逆に明期に高く暗期に低く,脳波の覚醒パタ-ンの出現量とほぼ一致した増減を示した.これらから,ヒスタミンは覚醒の維持に重要な役割をはたしていると推察された. (2)視床下部からのヒスタミン遊離の,グルタミン酸による調節機構をさらに検討した結果,グルタミン酸による遊離増強がテトロドトキシンにより抑制されなかったことから,ヒスタミン神経の終末に存在するプレシナプティックなNMDA受容体を介してヒスタミン遊離が制御されていることが明かとなった. (3)海馬からのアセチルコリンの遊離が結節乳頭核の電気刺激により増強し,この増強はヒスタミン生合成阻害により減弱し,内因性ヒスタミン遊離を増加させるチオペラミドにより増加し,ヒスタミンH2受容体遮断により抑制された.従って,脳内ヒスタミン神経系は,中隔野周辺において,ここに存在するアセチルコリン含有ニュ-ロンの活動性をH2ー受容体を介して制御していることが明らかになった. (4)内耳の電気刺激またはカロリ-刺激により,視床下部からのヒスタミン遊離が増加したことから,動揺病の際の前庭ー自律神経反射にヒスタミンが関与している可能性が示された.
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