フラボノイドはアスコルビン酸と共に壊血病による出血に有効な因子として古くから良く知られているが、その薬理作用については今日までのところ特筆すべき作用は報告されていない。初期の研究において、ある種のフラボノイド化合物が高濃度でカテコ-ルアミン代謝酵素を競合的に阻害し、その結果として外因性のカテコ-ルアミンの作用を増強することが報告されているに過ぎない。そこで本研究では、フラボノイド類の薬理作用、特に交感神経系機能に対する作用を明らかにする目的で、培養ウシ副腎髄質クロマフィン細胞におけるカテコ-ルアミンの生合成及び分泌に対するフラボノイド化合物の作用について検討を加えた。その結果、副腎髄質クロマフィン細胞からのカテコ-ルアミン分泌がクエルセチンによって抑制されること、この抑制作用が細胞内へのカルシウムの流入以後の過程、即ち細胞内分泌機構に対する直接的な阻害作用に基づくことをジギトニン処理細胞を用いて明らかにした。更に、細胞内分泌機構にプロテインキナ-ゼCが関与している可能性を示し、クエルセチンによるカテコ-ルアミン遊離の抑制がプロテインキナ-ゼCの阻害によるものであることを見いだした。一方、培養細胞を用いてカテコ-ルアミン生合成に対するフラボノイド類の作用について検討を加え、カテコ-ルアミン産生がクエルセチンによって抑制されることを見いだし、この抑制が生合成過程の律速酵素であるチロシン水酸化酵素の阻害に基づくことを明らかにした。更に細胞へのチロシンの取り込みがフラボンによって著しく促進されることを見いだし、その結果、カテコ-ルアミンの産生が増加することを報告した。これら研究結果より、フラボノイド化合物が神経伝達物質であるカテコ-ルアミンの生合成及び分泌に対する作用を介し、交感神経機能に何等かの影響を与える可能性が示唆された。
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