ラット肝細胞転写制御因子HNF1の染色体遺伝子のプロモ-タ-領域について詳しく解析を行った。主な転写開始点は一箇所で、翻訳開始点より約220塩基上流であった。次に、肝特異的な遺伝子発現に関与する調節領域の解析のため、5'上流より種々の欠失変異体を作製し、レポ-タ-遺伝子であるルシフェラ-ゼに連結したコンストラクトを作った。このコンストラクトを肝由来のHepG2細胞に遺伝子導入をし、各コンストラクトの転写活性を測定した。その結果、-118まで欠失させても転写活性はほとんど減少せず、-36まで欠失させると活性はほとんど消失した。このことから、-118から-36までのDNA断片がHNF1遺伝子の転写に最も重要な調節領域であることが明らかになった。そこで、肝核抽出液を用いて、-118から-36までのDNA断片をDNaseIフットプリント法で更に詳しく解析したところ、-60から-40の部位が防護された。-61から-36までの配列をもつオリゴヌクレオチドを合成し、別の最小プロモ-タ-であるTKーCATに連結し、HepG2細胞に遺伝子導入したところ、このオリゴヌクレオチドの挿入により約3倍の転写活性の上昇が認められた。又、このオリゴヌクレオチドを標識して、肝核抽出液とのゲルシフトアッセイを行うと、複合体を形成し、-60/-40のシスエレメントに結合するトランス因子が肝核抽出液に存在することを直接証明した。-60から-40の塩基配列をよく検討してみると、すでに同定されている転写因子HNF4の結合コンセンサス配列に似ていることに気づいた。ApoCIII遺伝子上のHNF4結合部位のオリゴヌクレオチドとの競合実験の結果、-60から-40のシスエレメントに結合するトランス因子は転写因子HNF4であることが判明した。つまり、転写因子HNF1遺伝子は転写因子HNF4遺伝子の支配下にあるとの結論を得た。
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