研究概要 |
尿素サイクル酵素の1つであるアルギニノコハク酸合成酵素:ASSの異常は高アンモニア血症を伴ったシトルリン血症を呈する。新生児小児シトルリン血症はASS異常が全身に見られる先天代謝異常症である。14症例の培養線維芽細胞からmRNA抽出→cDNA合成→PCR増幅→クロ-ニングと塩基配列決定という方法で変異解析を行った。これまでに9種の1塩基置換,4種のエクソン欠失,1種のスプライシング異常を明らかにした。血族結婚の両親を持つ2症例以外はすべてcompound heterozygoteを示した。バクテリアなどの下等細胞のASSとヒトASSのアミノ酸配列を比較したところ,全体のホモロジ-は低いけれども,1塩基置換のみられるアミノ酸は比較的よく保存されていた。それらのアミノ酸残基がASS活性や構造に影響を及ぼす部位である可能性が示唆された。ASSタンパクの構造と機能を知る上で1塩基置換の変異は重要であるが,各々の症例における変異が複合型になっているため,単純なASS発現系を検討している。 一方,成人発症型のシトルリン血症(II型)はASS低下が肝臓にのみ見られる臓器特異的異常を示す。このII型の真の病因は依然として明らかでない。II型は現在75例を超え、その血族結婚率は20%強という値であり,1〜5%という一般集団の率から考えるとII型は遺伝性疾患である可能性が高い。しかし,ASSmRNAの塩基配列に異常は認められなかった。血族結婚のある1家系のRFLP解析の結果からASS遺伝子と関連した異常でないことが示唆された。II型肝ASSmRNAは減少していないので,特にASSmRNAの3'非翻訳領域を中心に翻訳段階で調節するRNA結合蛋白の有無を検索している。標識RNAに結合する蛋白性の因子は認められたが,果してそれがASS合成を翻訳レベルで調節し得るものか否かさらに追求しているところである。
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