研究概要 |
細胞外マトリックスの構成成分を分解する酵素は、ガンの転移のプロセスで重要な役割を担っていると考えられている。なかでも基底膜の主な構成成分のひとつであるIV型コラ-ゲンを分解する「IV型コラ-ゲン分解酵素」は、高転移能のガンで活性が高いことが報告され注目されている。我々は、IV型コラ-ゲンを分解するが、従来報告されているIV型コラ-ゲン分解酵素であるマトリックスメタロプロテア-ゼ(MMP)familyのMMPー9(分子量92kDa)あるいはMMPー2(分子量72kDa)とは分子量や酵素学的性質が異なるメタロプロテア-ゼを発見し、酵素精製を進め、ヒト胃癌からは約8,000倍に、転移性肝癌からは約1,200倍に精製した。 本酵素は至適pHが7.6付近の中性プロテア-ゼで、基質としてはIV型コラ-ゲンを分解するが、I型、II型、III型、V型コラ-ゲンおよびfibronectin、casein、albumin、hemoglobinは分解しない。 その分子量はSephacryl S300 HRおよびSuperose 6 HR gel filtrationで評価した結果2,000kDa以上であり、従来報告されている分子量92kDaのMMPー9や72kDaのMMPー2とは異なる。本酵素は不活性型で存在し、トリプシン処理で活性化されるが、MMPの一般的な活性化剤である有機水銀剤APMA(pーAminophenylmercuric acetate)処理では活性化されなかった。またMMPー9と結合して阻害するTIMP(Tissue inhibitor of metallo proteases)では阻害されない、など従来報告されているIV型コラ-ゲン分解酵素とはいくつかの相違点を持つことを明きらかにした。 今後、本酵素について、酵素化学的性質をさらに詳細に明らかにするとともに、ガンの種類、増殖、転移のプロセスの関連を検討する目的で、特異抗体の作成と精製を行っている。現在までに抗IV型コラ-ゲン分解酵素ウサギ血清を得ることができたので、精製抗体を用いて本研究を発展させる計画である。
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