研究概要 |
ヒト消化管のPayer板濾胞周囲のBリンパ球は、Centrocyte-likeリンパ球と呼ばれ、この細胞に由来するリンパ腫をIsaacsonはmucosa-associated lymphoid tissue lymphomaと稱した。我々は、11例の異原発悪性リンパ腫の遺伝子解析に際して、IgH、CR遺伝子の再構成と共に、TCRβの遺伝子の再構成を示す4例を経験した。当初は、リンパ腫細胞がT・B両遺伝子再構成を持っていて、おそらく消化管に分布する特殊なBリンパ球の性質を反映するものと考えた。しかし、CD20とβFIの重染色の結果や、TCR遺伝子再構成が不完全な異常再構成でないこと、TCR-Vβレパートリーが多岐にわたることなどが判明し、これら4例のTCR再構成は、Bリンパ腫に浸潤するTリンパ球のクロナリティを表現していると考えるに至った。メラノーマやグリオーマでは、腫瘍浸潤Tリンパ球のクロナリティが報告されている。クロナリティを確実に立証するため、4例のTCRgeneをクローニングして、VDJ結合を解析した結果、2例でVβ_2-D-Tβ2,7,Vβ_2-D-Jβ2、3というクローン性構成が確認された。VDJ結合が,抗原認識上,重要な部分であることを考えると、消化管Bリンパ腫に関連した抗原を認識できるTリンパ球が、選択的にリンパ腫内に浸潤している可能性が高い。或は、消化管には特有の外来性抗原があり、その認識に必要なVβ2usageのTリンパ球が多く、腫瘍内にも偶然に浸潤しているのかも知れない。リンパ節病度や皮膚病変の同様の解析より、臓器特異的なVβファミリー再構成Tリンパ球の分布は、ありうるものと考えられる。 以上、本研究では、消化管に分布するリンパ球のうち、消化管原発リンパ腫に関連したTリンパ球についての解析に終始したが、その面では貴重な新知見を得ることが出来た。本研究の成績は、腫瘍免疫学の発展に寄与する所が大きいと考えられる。
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