胃腺腫組織のtotal RNAよりp53 cDNA total open readingframeをRT-PCR法にてクローニングし、コドン100から300までの全塩基配列を決定した。p53遺伝子の点突然変異は、腺腫10病巣中3病巣(30%)で見いだされた。その内訳はフレームシフト1病変、ミスセンス点突然変異2病変であった。このことからp53遺伝子の変異は腺腫から癌腫に移行する際、重要な役割を果たしている可能性が示唆された。 胃癌におけるc-MET遺伝子の増幅について検討した。腸上皮化生(27症例)、早期胃癌(11症例)ではc-MET遺伝子変異はなかったが、進行胃癌64症例中15症例(23%)では種々の程度に増幅していた。組織形との関連についてみると、分化型腺癌5例(19%)、スキルス胃癌を含む低分化腺癌では10例(26%)と後者において頻度が高かった。なお、大腸癌では23例中1例のみに増幅があり、食道癌では見いだされなかった。c-MET遺伝子増幅は胃癌に比較的特徴的であり、しかも、胃癌多段階進展における晩期変化であることが明かとなった。 研究の総括を行った。胃癌多段階進展の過程においては、種々の癌遺伝子変異あるいは癌抑制遺伝子の欠失が蓄積される。こうした現象は大腸癌における遺伝子変異と同様である。癌化の初期変化としてはp53遺伝子の点突然変異や12q、17pの欠失が晩期変化としてはc-ERBB2、k-SAM c-MET遺伝子等の増幅が重要視され、癌進展に関与している。その際、分化型腺癌と低分化腺癌では共通した遺伝子変異と異なった遺伝子変異があり、両者における組織発生の相違を反映しているものと見なされる。
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