1.胃腺腫ではRAS、MYC、FOS、ERBB2遺伝子増幅はないが、蛋白質レベルでの発現が種々の程度に見いだされた。この内、ERBB2は66例中43例(65%)において腺腫細胞管腔側細胞膜に免疫活性陽性であった。さらに、胎児胃粘膜、化生粘膜あるいは再生粘膜上皮に陽性であった。 2.p53遺伝子産物は管状腺腫67例ではすべて陰性であった。腺腫内癌では4例中2例、早期胃癌では9例中3例、進行胃癌では96例中36例において陽性癌細胞が見いだされた。p53遺伝子の点突然変異は、腺腫10例中3例、分化型腺癌6例中4例、低分化腺癌10例中5例に見いだされた。胃癌ではp53遺伝子の変異が組織型に関係なく高率に生じておりしかも、それは癌化の早期変化であることが示唆された。 3.胃癌48症例におけるLOHについて検討したところ、分化型腺癌では1q、5qが約50%、17pが約70%で欠失しており、1p、12qの頻度も高かった。早期胃癌と進行胃癌の比較をすると1p、5q、12q、17pでは頻度の差はないが、1q、7p、7qは進行胃癌でのみ見いだされた。低分化腺癌では17pの欠失は約60%であるが、1q、5qはなかった。 4.胃癌において増幅する遺伝子としてERBB2、k-SAM、c-METが見いだされた。ERBB2は分化型腺癌(18%)でのみ、k-SAMは低分化腺癌、主としてスキルス胃癌(33%)で増幅していた。他方、c-MET遺伝子は進行胃癌64症例中15症例(23%)で種々の程度に増幅していた。組織形との関連についてみると、分化型腺癌5例(13%)、スキルス胃癌を含む低分化腺癌では10例(26%)と後者において頻度が高かった。 5.胃癌多段階進展の過程においては、種々の癌遺伝子変異あるいは癌抑制遺伝子の欠失が蓄積されるが、分化型腺癌と低分化腺癌では共通した変異と異なった遺伝子変異があり、両者における組織発生の相違を反映しているものと見なされる。
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