本研究では心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の乳幼児心疾患の心室筋における発現について免疫組織学的に検討した。その結果、剖検心において心内膜線維弾性症、拡張型心筋症の左心室心筋にANP免疫反応陽性顆粒を有する心筋細胞を認めた。その分布は心内膜側により多く認められた。肥大型心筋症では一部の症例を除きANP陽性細胞は認められなかった。また先天性奇形心や対照正常心では、ANP陽性細胞は心室には認められなかった。ANP陽性細胞を認める心臓と陽性細胞をみない心臓を比較すると、心重量については差がみられなかったが、左心室容積は前者が後者に比べて有意に大きかった。組織学的には、線維化に囲まれた心筋細胞に陽性細胞の出現率が高く、また陽性細胞の横径は陰性細胞に比べて大きいことが示された。心内膜線維弾性症の左室心筋生検標本における免疫組織学的検討では、ANP陽性細胞の分布量と、心室造影による左心室拡張末期容積および左室駆出率の間に相関を認めた(r=0.735、0.730)。また、この陽性細胞分布量は心筋組織病変度(心筋肥大、変性、間質線維化の程度)と相関を示した(r=0.762)。生検左室心筋の電顕像では、心筋細胞内に直径250ー400nmの均一な電子密度の顆粒がみられ、ANP分泌顆粒と考えられた。さらに、免疫電顕により心室筋の顆粒にANPー金コロイドの集積がみられ、また同一顆粒に脳性ナトリウム利尿ペプチドー金コロイドも集積することが確認された。以上の結果から、乳幼児心筋疾患の心室筋におけるANPの分泌は、心筋組織に加わる負荷、さらに個々の細胞に加わる負荷と密接な関係があることが示唆された。
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