研究概要 |
ヒトアデノウイルス12型TW株(東京大学医科学研究所癌ウイルス研究部白木和子博士の恵与)感染力価108PFUの濃縮液0.005mlを硝子毛細管を用いて、CDF系ラット硝子体腔内に接種して経過観察したところ1/22(4.5%)に網膜腫瘍を誘発できた。期間は118日であった。本年度の研究計画は、この腫瘍組織と培養細胞系について1)腫瘍組織におけるE1A領域DNAの発現の有無、2)経時的にDNA発現を観察して初期変化の把握、3)細胞増殖と癌遺伝子の関連性、4)腫瘍細胞の視細胞分化を検討する。[結果]1)腫瘍組織及び対照ラット網膜組織より抽出したgenomic DNAを用いてサザンブロット法で検索すると、アデノウイルス12型E1A領域のフォトビオチン標識プロ-ブでは、腫瘍組織より抽出されたサンプルにおいてバンドが同定でき、発癌遺伝子の組み込みが確認できた。用いた制限酵素をEco R1とし、ヒトRb遺伝子(H3ー8)cDNAをプロ-ブとしてサザンブロット法を行なうと、腫瘍組織、対照ともにバンドが同定できた。即ち、発癌過程でのヒト及びラットに共通した遺伝子異常が示唆される。そこで、ヒト網膜芽細胞腫における遺伝子異常を確認するために、パラフィン包埋組織からDNAを抽出してPolymerase Chain Reaction(PCR)法にて検討した。対照してヒトプレアルブミン遺伝子のエクソン3と、RB遺伝子のエクソン4,20についてみるとエクソン20の位置で一例に欠損が示された。2)接種1週、2週後の網膜組織からのDNAの発現をみると1週後の網膜内顆粒層において既にadenovirus12ーElA mRNAの発現が確認できた。RB gene productに対する抗体(oncogene science Co.)は、基礎的検討の過程で、特異性に問題が多く、その対比検討に至らなかった。3)培養細胞系を用いて、PCNAとRB gene productに対する抗体での反応を試みたが、結論を得られなかった。4)培養細胞系を用いて、分化誘導後に抗Rhodopsin抗体による酵素抗体法で免疫染色してみると、少数の神経突起様の細胞形態に陽性像が確認された。
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