慢性高血圧下における動脈内皮細胞の増殖に関する情報を得る目的で.高血圧自然発症ラット(SHR)および同動物の大動脈由来の培養内皮細胞を用いて研究を行い.次のような成果を得た。1.SHRの大動脈および脳の微小血管の内皮細胞は正常圧ラットに比べ.増殖傾向の亢進を示した。他方で.SHR由来の培養内皮細胞も.その増殖傾向は対照に比べて亢進を示した。内皮細胞の増殖亢進は高血圧に基づく傷害に対する反応でけとは考えられず.高血圧により同細胞の増殖因子産生亢進が根こっていると推測される。2.SHR由来の培来内皮細胞の条件培養液を培養線維芽細胞.平滑筋細胞および星状膠細胞に作用させると.正常圧ラット由来の内皮細胞の場合と比べ.有意な増殖の増強を示した。この事実は高血圧が内皮細胞由来の増殖因子産生の亢進を引き起こしていることを示している。3.SHRおよび対照ラットの培養内皮細胞の培養上清をヘパリン・セファロースカラムにかけ.種々の塩濃度勾配で溶出させ.各フラクションの線維芽細胞に対する増殖作用を調べた。最強の増殖作用を示するフラクションが血小板由来増殖因子(PDGF)のそれに相当することが明かとなった。これに抗PDGF中和抗体を作用させ.内皮細胞より分泌される増殖因子がPDGF-B鎖であることがわかった。4.培養内皮細胞よりRNAを抽出し.ノサン・ハイブリダイゼイションの結果.SHR内皮細胞では対照に比べ.PDGF-B鎖のmRNA発現が亢進していた。5.内皮細胞の増殖因子の産生.分泌にプロテイン・キナーゼCが関与していることが明かとなった。これらの研究より.慢性高血圧下では動脈内皮細胞においてPDGF-B鎖等の増殖因子産生の亢進があることが初めて証明され.この内皮細胞由来増殖子が.血小板あるいはマクロファージ由来の増殖因子と共に.動脈硬化の発生.進展に関与している可能性が示された。
|