研究概要 |
当研究の目的は,アレキサンダ-病の疾患脳で水晶体蛋白であるαBークリスタリンが蓄積する機序を明らかにすることと,この蛋白質が正常脳ではグリア細胞に特異的に発現しているが,その発現調節機構を解明する事にある。まず,グリア系の培養細胞を用いて,αBークリスタリンの発現様式を解析した。具体的には,ラットグリオ-マ細胞株C6とラット正常脳において5′ー先導配列の長さの異なる2種類のmRNAが発現している事をNorthern blottingおよびcDNAの解析により明らかにした。ついでラット肝から抽出したDNAを用いて,αBークリスタリンの遺伝子が単一であることをSorthern blottingにて証明した。またC6の細胞で,αBークリスタリンの発現はホルボ-ルエステルによって,その短いmRNAが選択的に誘導され,cyclic AMPによって抑制された。これらの実験結果から,αBークリスタリンの単一遺伝子内には,2つのプロモ-タ-領域があり,それぞれ異なる発現様式を持つことが示唆された。In vitroの系で,長いmRNAに比べて、短いmRNAの方が効率よく蛋白質に翻訳される事と、αBークリスタリンの含有量の多い臓器では短いmRNAが選択的に多く発現している事から,短いmRNAの転写を制御しているプロモ-タ-領域の解析がより重要と考えられる。またヒト培養細胞では今までの所、短いmRNAのみが検出されている。ついでアレキサンダ-病脳で蓄積しているαBークリスタリンの存在様式を明らかにするために,その疾患脳に異常に蓄積している構造物であるロ-ゼンタ-ル線維を分離し、免疫電顕法で観察した。この結果,ロ-ゼンタ-ル線維には、αBークリスタリンとグリア線維性酸性蛋白のエピト-プが含まれ,これらの蛋白質が主要構成成分としてロ-ゼンタ-ル線維を形成し,さらにユビキチンによる生化学的修飾が関与している事が明らかとなった。
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