研究概要 |
肥満とは生体の脂肪組織量の増加であり,脂肪細胞の肥大,増殖,あるいは,この両者によって起る。脂肪細胞の肥大については従来より,検討されてきているものの、脂肪細胞の増殖機構については適当な研究方法がなかったことから,ほとんどわかっていない。 今年度,私共は細胞の増殖機構の検討に最も適していると考えられる細胞培養方法の確立を脂肪細胞について試みた。前脂肪細胞(未熟脂肪細胞)は増殖能が高い細胞があるが,増殖後,球形の成熟脂肪細胞に分化する。この増殖から分化への相転換を高率に行なわせるために,私共は,二方向栄養性脂肪細胞培養法という新しい方法を開発した。これはコラ-ゲン膜を底に張った培養皿で前脂肪細胞を培養するものであり,上下二方向から栄養されるために,アクチンフィラメントが伸展せず,球形の成熟脂肪細胞に高率に分化するのである。これについて,第 回日本肥満学会総会及び第6回国際肥満学会で発表し,Praceedingに掲載される予定である。次に,この成熟脂肪細胞を私共が開発し,既に発表済の二つの方法(天井培養法及びコラ-ゲンゲル培養法)で培養し,脱分化させ,未熟脂肪細胞を得た。これらの方法によって,増殖能の高い細胞相と,分化細胞相という二相を確実に得ることができるようになり,脂肪細胞の増殖に関与する遺伝子を検索する方法と材料を獲得することができた。これらの細胞について,細胞増殖に関与していると考えられる遺伝子の発現を検討した。その結果,核内転写に関与しているmyc遺伝子の発現はなく,細胞膜直下にあり,グアニンヌクレオチド蛋白に関与するras遺伝子の発現は弱く,しかし,受容体類似のチロシン特異的蛋白質キナ-ゼに関与するneu遺伝子の発現が明瞭にみとめられた。これらの結果に加えて,今後,fos遺伝子等についても検討してゆきたい。
|