研究概要 |
肥満とは生体の脂防組組量の過度の増加であり、脂肪組織を構成しているものは、殆んどが脂肪細胞であるので、脂肪細胞の肥大、増殖、あるいは、この両者が、肥満の場合に起っているものと考えられる。脂肪細胞の肥大、即ち細胞質内中性脂肪量の増加は従来より生化学的に研究されてきたものの、脂肪細胞の増殖機構については殆んど検討されていない。今回は、この脂肪細胞の増殖に際して、どのような遺伝子の発現がみられているかについて検討した。遺伝子としては、まずmyc,ras,及びneu(erbBー2)遺伝子をとりあげた。これらは、いずれも、癌遺伝子といわれるものであるが、同時に又、その原形遺伝子は正常の組織・細胞の成長と増殖に関与している。材料は細胞増殖が増も活発に起っている新生児期のラット及びヒトの皮下脂肪組織であり、検索方法は、前記遺伝子の産物に対する抗体を用いての免疫組織化学である。その結果、核内転写に関与しているmyc遺伝子の発現はなく、細胞膜直下にあって、グアニンヌクレオシド蛋白に関与してras遺伝子の発現は弱かった。しかし、受容体類似のチロシン特異的蛋白質キナ-ゼに関与しているneu遺伝子の発現が明瞭にみとめられた。そこで、neu遺伝子の発現を、ラット及びヒトの正常成熟固体、更にラット、マウス、ヒトの肥満個体について、脂肪組織の免疫組織化学によって調べた所、肥満個体については、弱陽性であった。しかし、正常(非肥満個体)との間に、明瞭な相違を認め得なかった。このことは、肥満者の脂肪細胞は、既に増殖を終えているものと考えられる。次に、培養条件下の脂肪細胞について、neu等の遺伝子産物の発現を検討した。まず再構築皮膚における皮下脂肪組織では、軽度ではあるが、neu遺伝子の発現がみとめられた。ただ、脂肪細胞単独での培養、及び肥満個体から得た脂肪細胞の培養の場合の検討は行なったが、確実な結果が得られなかった。
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