ブタの脳のホモジネートより、繰り返し精製する事によって、粗キネシン含有分画を得た。さらに精製し、脳実質100gあたり約20μgのキネシン蛋白を得た。 この蛋白は、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動でキネシンのHeavy chainに一致する単一の114kDのバンドとして泳動された。また、この蛋白にチューブリンを添加することにより、ATPase活性は約3倍に上昇することからキネシンと同定された。この蛋白をマウスに免疫し、モノクロナール抗体を得た。抗体産生の検定には、ELISAのかわりに、Western blot法を応用した。得られた抗体のグロブリンサブクラスはIgM、κであった。この抗体を用いた酵素抗体法では、神経細胞の細胞質内にびまん性に染色されたが、培養線維芽細胞、培養神経細胞や培養肝細胞では、抗チューブリン抗体で染め出される微小管にほぼ一致する分布を示した、顆粒状の反応を認めた。蛍光抗体法による染色態度も同様であったが、感度や鮮明度では、蛍光抗体法の方が高い傾向を示した。この抗体を利用して組織の免疫組織化学を行い、キネシン保有細胞の種類や、その細胞内局在の特徴を調べた。キネシンは、神経細胞に多く、ニッスル小体様の細顆粒状構造や、神経突起に沿って細顆粒状の染色を認めた。グリア細胞などにはほとんど染色されなかった。肝組織では、胆管上皮にやや強い染色を見たが、肝細胞には弱いびまん性の染色を見るのみであった。免疫電顕による培養神経芽腫細胞株の検索では、ライソソーム、小胞体やミトコンドリアなどに強い陽性反応が見出され、光顕での細顆粒状の局在が、小器官に相当する可能性が示唆された。培養肝細胞の免疫電顕では、細胞質内に散在性に陽性反応がみられた。しかし、局性を示す極在は認められなかった。 MDCK細胞を用いて、チューブリン重合阻害剤であるノコダゾールと、微小管脱重合阻害剤であるタキソールの存在下における細胞内キネシンの局在を観察したが、明らかな差は認められなかった。バナジン酸や、Brefeldin Aの存在下においても、細胞内のキネシンの局在には明らかな変化はみられなかった。しかし、ミトコンドリアの細胞内局在は、タキソールを添加したときに核周囲に濃縮し、キネシンと異なった反応を示した。
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