ヒトの心臓死の大きな割合を占める不整脈発生の機序を細胞レベルで検討するため、病的心筋細胞内で生じるであろう不均一な現象を画像として捉えることのできるシステムを開発し、単離心筋細胞をカルシウム過負荷の状態にして生じるカルシウム波をモデルに、電気生理学的解明だけでなく、発生時の形態学的変化をも捉えることを目的とした。 開発したのは、高速の画像入力が可能な2つのカメラとpipeline systemを持つ画像処理システムと速いカルシウムイオンの変化に対応できる倒立型共焦点レ-ザ走査顕微鏡システムである。これらのシステムの開発によって初めて単離心筋細胞における速い細胞内カルシウム濃度の変化を捉えることができ、次の結果を得た。 心筋細胞を脱分極状態に保つことによって細胞の様々な場所からカルシウム波が生じた。カルシウム波は、急峻な立ち上がり(約10ミクロンの間に500nMから1200nMにそのカルシウム濃度が上昇する)と緩やかな下降脚というプロフィ-ルと一定の速度(100μm/sec前後)を持つことが分かった。さらに、走査時間、共焦点レ-ザ走査型顕微鏡・画像処理装置間のインタ-フェイス、正確なステ-ジ動作、減衰や迷光の少ない光路系等を改良することによって、細胞内カルシウム濃度の測定がミリ秒単位で可能となり、このカルシウム波は、一度生じると細胞内だけではなく近接した細胞にも伝播することができ、そのスピ-ドやプロフィ-ルはその間ほとんど変わらないことが分かった。 これらの結果は、病的心筋細胞内で生じるであろう不均一な現象を細胞の形態変化とカルシウム等機能分子の空間的・濃度的変化について同時に知ることができることを意味しており、不整脈発生の機序を細胞レベルで捉えるという当初の目標は達成したと思われる。
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