研究概要 |
昨年度我々はret癌遺伝子をマウスに導入することにより、色素細胞腫瘍を好発する系を確立したことを報告した。さらにこの腫瘍によりret癌遺伝子を発現する細胞株(以下Melーret)の樹立に成功した。ret癌遣伝子産物はチロシンキナ-ゼ活性を有すると考えられるので,本年度はMelーrat細胞におけるチロシン燐酸化蛋白の解析を行なった。 まず,トランスジェニックマウスに発生した原発腫瘍をMelーret細胞におけるチロシン燐酸化蛋白を抗フォスフォチロシン抗体を用いたウエスタンブロット法にて検索した結果,両者に共通に観察される135kd,125kd,100kdの燐酸化蛋白とMelーret細胞に特異的に存在する85kdの燐酸化蛋白を検出した。このうち100kdのバンドはret蛋白そのものであった。これらの燐酸化蛋白の細胞内局在を調べたところ,135kdと125kdの蛋白は膜画分と細胞質画分に,100kdと85kd蛋白は膜画分のみに存在することが判明した。さらに抗フォスフォチロシン抗体を用いた蛍光抗体法にてMelーret細胞を染色すると細胞膜のみが特異的に染色されることにより,ret蛋白を介したシグナル伝達は細胞膜にて開始されることが強く示唆された。 最近PIー3キナ-ゼの85kdサブユニットが種々のチロシンキナ-ゼの基質蛋白になることが報告されている。よってMelーret細胞に検出された85kdチロシン燐酸化蛋白がPIー3キナ-ゼのサブユニットであるかどうかを知る目的で,Melーret細胞におけるPIキナ-ゼ活性を測定した。しかしながらMelーret細胞におけてPIキナ-ゼ活性の上昇はみられず,85kdの燐酸化蛋白はPIー3キナ-ゼのサブユニットである可能性は少ないと考えられた。
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