前年度で確立したペプチドグリカンに対する抗体の作製法により分離した抗黄色ブドウ球菌Cowan1株ペプチドグリカン抗体を用いて、分離した黄色ブドウ球菌Wood46株の細胞壁について解析を行った。Wood46株を使用した理由は、この株がプロテインA欠損株であるため非特異的な抗体の総合を無視できるためである。結果は、抗ペプチドグリカン抗体は細胞壁の内外の表面とよく反応したばかりでなく、細胞壁の外層に存在する線維状構造物にも結合しているのが見られた。この線維状構造物は、抗タイコ酸抗体を用いた以前の実験結界から、ほとんどはタイコ酸と細胞壁タンパクであると考えられたが、ペプチドグリカンもこの構造物を構成している成分の1つであることが確認された。さらに、前年度での全菌を用いた実験でも、菌の表面に抗ペプチドグリカン抗体が結合した結果が得られている。これらの結果より、通常黄色ブドウ球菌の表面にはペプチドグリカンが露出しておらず、菌の感染後もペプチドグリカンに対する抗体は宿彩の防御作用に影響を及ぼさないという考えに反して、実際は黄色ブドウ球菌の表層にはペプチドグリカンが露出しており、感染時な宿主な防御作用に影響を及ぼしているものと考えられる。 次に、この抗体及び抗タイコ酸抗体を用いて莢膜保有株Smith diffuse株について実験を行った結果、Smith diffuse株の莢膜は、ペプチドグリカンやタイコ酸の外層を覆っているばかりでなく、これらの抗体が通過することをも妨げているものと思われた。さらに、抗ペプチドグリカン抗体は、他のグラム陽性菌のペプチドグリカンとも反応を示すので、枯草菌ではタイコ酸がペプチドグリカンの上を覆っており、ペプチドグリカンは表層にはほとんど露出していないものと思われた。
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