研究概要 |
ロタウイルスの自然界での生態を解明することは,ロタウイルスワクチン開発上必須であると考えられる。本研究の目的は,ヒトおよび動物に由来するロタウイルスの遺伝子の多様性と,この多様性の形成にロタウイルスの種間伝播(ロタウイルスが種の異なる宿主に感染すること)が関与しているのかどうかということを解明することである。このために,ロタウイルスの遺伝子をRNAーRNAハイブリディゼ-ションでしらべることにより相対的な遺伝子の相同性に基づく“ゲノグル-プ"という概念を導入することが必要であることを提唱してきた。 ロタウイルスの遺伝子の多様性の解明のために,われわれが過去10年間に自分たちで分離した株あるいは他の研究者が分離した株を分与されたものなど,現在広く承認されている全ての血清型(serotype)を含む76株を解析の対象にした。このうち平成2年度の研究では,ヒトロタウイルスが,それぞれWa株(血清型1,亜型II,long RNAパタ-ン),KUN株(血清型2,亜型I,short RNAパタ-ン)およびAnー1株(血清型3,亜型I,long RNAパタ-ン)をプロトタイプとする3つのゲノグル-プからなることを明らかにした。このことはわれわれの仮説通り,ロタウイルスの遺伝子構成はランダムに入り乱れず,11分節の遺伝子がともに進化している(coーevolve)していることを示唆している。 一方,ロタウイルス野外株の中には明らかにこのようなゲノグル-プ間でおこった遺伝的組換え現象(genetic reassortment)によっておこったと考えられるものが存在することを明らかにした。 さらに興味あることにヒトおよびネコに由来する一部のロタウイルス株が例外的に同一のゲノグル-プに属していることが明らかになり,種間伝播が進化の途上であったと推定される分子レベルでの証拠が得られた。
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