研究概要 |
先に我々は,発育鶏卵とヒトメラノ-マ細胞(HMVーII)の双方で分離した6株のC型インフルエンザウイルスから種々の継代歴を持つウイルスを作製し,それらの抗原性を比較することにより,以下の結論を得た。 山形/4/88株や山形/7/88株をHMVーII細胞で分離継代すると,同細胞で効率良く増殖する抗原変異株が選択され,発育鶏卵で分範継代したものとは抗原性を異にするウイルス集団に変化する。山形/8/88株でも、抗原性こそ変化しないものの,HMVーII細胞で継代することにより,同細胞で非常に良く増殖するウイルスが選択される。 本年度は,上記の3株で認められたHMVーII細胞への馴化の機序を解明する目的で,同細胞で馴化し高増殖能を獲得したウイルスのHE蛋白のアミノ酸配列を発育鶏卵で分離継代したものと比較した。 1.山形/4/88株の卵継代ウイルスとHMVーII続代ウイルスの双方から調整したRNAを鋳型としてcDNAを合成し,塩基配列を決定したところ,前者ではN端から283番めのアミノ酸がAspであるのに対して,後者ではAsnであることが明らかになった。すでに我々は,単クロ-ン抗体抵抗性変異株の解析から,Asp283→Asnの変化がレセプタ-との親和性を亢進させるのを観察している。 2.山形/7/88株の卵継代ウイルスとHMVーII継代ウイルスの間には,2ヶ所のアミノ酸に違いが認められた(Glu212→Lys,Asn519→Asp)。単クロ-ン抗体抵抗性変異株の解析結果は,Glu212→Lysの変化もレセプタ-との親和性を高めることを示している。 3.山形/8/88株については,卵継代ウイルスとHMVーII継代ウイルスのHE遺伝子の間に一切違いを認めることはできなかった。従ってこの株のHMVーII細胞への馴化は,HE以外の遺伝子に生じた突然変異に基づくものと推測される。
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