我々は上咽頭癌初代培養細胞とアデノイド由来上皮系細胞株との細胞融合によってEBウイルス産生性の上皮系細胞株NPCーKTを世界ではじめて樹立化することに成功した。さらにNPCーKTの高ウイルス産生性のサブクロ-ンであるs61細胞はウイルス産生時にヘルペスウイルスに特徴的な多核巨細胞、封入体を形成することを報告した。融合細胞形成はウイルスDNA合成阻害剤であるアシクロビル、又はグリコシレイション阻害剤2ーデオキシグルコ-スにより阻害されることからウイルス感染後期に発現する糖タンパクが関与することが示唆された。またこれらの阻害剤によりs61細胞のウイルス抗原発現細胞の割合は細胞融合を起こさない親株NPCーKT細胞のレベルまで低下する。一方NPCーKT細胞ではこれらの阻害剤による抗原陽性細胞の低下は認められなかった。これらのことからs61細胞ではウイルス増殖サイクルが細胞融合によって広がって行くことが示唆された。トリチウムチミジンにより核を標識したs61細胞を用いてs61細胞の細胞融合はウイルスセプタ-を持たない細胞とも起こることがin situオ-トラジオグラフィ-により確認された。従来、EBウイルスが上皮系細胞に感染することによって起こる上咽頭癌の発生機序、特に感染機構については不明であったが、このことはEBウイルスのウイルスレセプタ-陰性の上皮系細胞への感染が細胞融合によって起こる可能性を示している。
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